保育の今とこれから        

第3回「市政まなび塾」の概要報告

講師は福川須美さん(駒沢短大教授)


 《豊かな会》の付属機関として設置した「市民派市政こまえ研究所(こまえ市政研)」が開催する「市政まなび塾」は、第3回目となりました。今回は、保育園をめぐる問題をとり上げました。

 以下、11人の皆さんが参加して熱心に学び合った第3回「市政まなび塾」の概要を報告します。(文責=絹山)

日時 6月11日()午後7時30分〜9時半頃 

■会場 当会事務所(みんなの広場)

■課題 「保育の今とこれから

■講師 福川須美さん(駒沢短期大学教授)

 

 

福川さんのお話のポイント

 

  レジュメのほかにも新聞記事など、たくさんの資料を用意いただき、福川さんは約1時間15分、熱く語ってくださいました。

報告者の理解力の限界内ということになりますが、福川さんのレジュメに沿ってお話のポイントを報告します。

 

1.保育の公的責任を考える

 

1)規制緩和と民間企業の参入

  ◇児童福祉法は、現憲法施行の年、1947年の12月に制定された。1950年頃、「保育に欠ける」の規定が加わり、保育所への入所措置が義務化された。

  ◇この間、保育所の設置運営主体の変化が進み、2008年には公立保育園と私立保育園の数が逆転した。

2000年、認可保育所の設置運営主体制限を撤廃され、自治体・社会福祉法人に加え、株式会社等の参入が可能になったが、株式会社立は、全国の認可保育所の1.6%(20124月現在)にとどまっている。

2)規制改革会議の要請と厚労省の回答

  ◇2012年8月の子ども・子育て関連3法成立により、株式会社の参入規

   制がなくなった。

※注

△子ども・子育て支援法(平成24年法律第65号)

△就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する

法律の一部を改正する法律(平成24年法律第66号)

△こども・子育て支援法及び就学前の子どもに関する教育、保育等の総

合的な提供の推進に関する法律の一部を改正する法律の施行に伴う関

係法律の整備等に関する法律(平成24年法律第67号)

◇規制改革会議が、株式会社の参入を制限している自治体を問題視し、株式会社の参入促進要請し、厚労省は「子ども・子育て新制度になれば保育需要が満たされていない地域では参入申請を拒めず、自治体の裁量は縮小する」と回答した。

◇どうして「子育て産業」が儲かるのか? 儲かるように規制緩和しているからだ。日本保育サービス、小学館、ベネッセなどが全国展開している。

 保育が産業になっているのを見てびっくりした。子どもの写真をたくさん撮るなど、保護者受けすることをやっている。研修もすべて社内でやっており、あれでは市役所などいらない。

◇会社の基本は儲けること。そのためにはコストダウン、要するに人件費削減であり、保育を貧しくしている。

◇保護者の中でも、待機児解消のためなら規制緩和はしようがない、との声がある。しかし、保育はその国の根幹に関わる問題だ。女性が働ける社会をつくるべき。北欧では「専業主婦」はいないと言われている。

         

3)安倍首相の待機児童解消加速化プラン/20134

  ◇20132014年度    20万人分  緊急プロジェクト

   2019年度までに    40万人分  待機児解消予定

   としているが、消費税増税が前提となっている。

◇株式会社を積極的に活用し、待機児を大幅に減らした横浜市(株式会社立保育所が20.9%)に注目し、「横浜方式」の全国展開を目指している。株式会社は当然、利益を求める。利益があがらなければ撤退するというリスクをかかえている。配布資料の新聞にあるように、オーストラリアでは、10万人規模の保育企業が倒産するという体験を受け、保育は公的なものという流れに変わったといわれている。

◇企業、NPO(質のバラツキが大きい)等の参入を促進するため、必要面積等の最低基準の緩和しようとするもの。現在の面積基準でも狭い。雨の日は園庭が使えないため、ホールの混雑は大変。「待たせる保育」、集団管理型保育になってしまう。こんな低い基準は世界にない。

◇そして、狛江でも動きが出ているように、公立保育園の民営化を継続して進め、また保育料を値上げしようというのが自公政権の「待機児童解消加速化プラン」の中身である。

2.市町村の保育責任の後退

 

◇昨年、「改正」された児童福祉法第24条の第1項と第2項を見てみたい。

 

第二十四条 

 市町村は、この法律及び子ども・子育て支援法の定めるところにより、保護者の労働又は疾病その他の事由により、その監護すべき乳児、幼児その他の児童について保育を必要とする場合において、次項に定めるところによるほか、当該児童を保育所(認定こども園法第三条第一項の認定を受けたもの及び同条第九項の規定による公示がされたものを除く。)において保育しなければならない。

2 市町村は、前項に規定する児童に対し、認定こども園法第二条第六項に規定する認定こども園(子ども・子育て支援法第二十七条第一項の確認を受けたものに限る。)又は家庭的保育事業等(家庭的保育事業、小規模保育事業、居宅訪問型保育事業又は事業所内保育事業をいう。以下同じ。)により必要な保育を確保するための措置を講じなければならない。

 

 ◇第1項で、市町村の保育実施義務規定が残されているが、保育所について、

つまり認可保育所に限定して、市町村が保育の必要な子どもに対し、保育

の実施義務を負う。

 ◇第2項では、保育所以外の保育施設(認可外の保育施設)について、保育の実施義務は明記していない。「保育を確保するための措置を講じなければならない」と言うのみであり、補助金を出す程度だ。

 ◇認可保育所と認可外保育施設との間で、子どもの差別的取り扱いを生じさせないか?危惧される。同じ子どもであり、同じ保育を保障すべきである。

       

3.保育の必要性の認定制度と子どもの保育を受ける権利

 

◇自公政権が進める「子ども・子育て新システム」では、保護者の就労時間に合わせて短時間、長時間の保育必要性認定を判断するとしているが、そんなことをすれば自治体の事務量は大変になってします。本当は、長時間保育よりも働く人の就労時間を短くすべきなのだ。

◇子どもの権利条約にも明記された、子ども自身の保育を受ける権利の問題。子ども自身の必要性に基づく判断こそ重要であり、すこやかに育つための保育を保障する必要がある。

 

4.世界の保育と日本の保育

 

◇乳幼児期の重要性への認識が求められる。人生の土台を育む時期であり、生きる基本の力をつくるという認識を保育・教育政策へ反映させる必要がある。

◇OECD(経済協力開発機構、34か国加盟)の資料を紹介したい。ひとつは、主なOECD加盟国の保育・就学前教育への国家予算支出の割合を比較した表で、ヨーロッパ諸国に比べて、日本はアメリカ、カナダとともに少なく、第一位のスウェーデンの5分の1に過ぎない。日本は、家族支援の政策全体でも、保育行政にも予算を割いていないのが歴然だ。

スウェーデンでも一時、「少子化」が問題になったが、今では合計特殊出生率(一人の女性が生涯に産む子どもの数の推定値)は2.0人を超えた。配った新聞記事にあるように、日本では1975年に2.0を下回って以降、激しく落ち込んでおり、2011年は1.39人となり、世界保健機構(WHO)加盟の194カ国中、179位となっている。

◇次の資料は、OECDにおける「保育の質」の議論に関するもので、子どもの発達を保障する保育を「人生の出発を力強く」というスローガンで表現している。子どもたちは、毎日の生活の中のあらゆる面から学んでおり、生活体験の質=プロセス(過程)の質が重要であり、それが保育における構造的な質の確保につながる。「結果の質」よりも、豊かな生活の中で子どもの健やかな成長と学びを保障するような「過程の質」を重視すべきである。

 ◇日本の「保育の今」は、それどころではない現状で、本当に心配している。社会的な格差が広がっている。子供の世界に格差は許されない。日本では、教育費の国民負担が高い。

 

5.これからの課題

 

◇「改正」児童福祉法第24条第1項の意義

  先述のとおり、市町村の直接的責任が残った意義を確認したい。

 ◇入所手続きと行政不服審査請求の権利

  第1項の認可保育所入所については行政不服審査法に基づく審査請求がで

きるが、第2項の認可外保育施設については審査請求の対象にならないと

いう違いがある。

◇「幼保連携型認定子ども園」の問題点

  教育と保育を同時に保障する施設として法的に位置づけているが、幼稚園

機能と保育所機能を併せ持つことが必須条件とはなっておらず、いったい

どうなるのか?

 ◇保育必要量は8時間をコアに

  子どもたちの発達と生活を保障する保育時間にすべき。もちろん、「今日は

4時間で帰るわ」というにはそれでいい。

過剰な労働時間の見直し等、労働と生活の全体を改善していくことが課題

となっている。

 ◇公立保育所の存続と発展

  公立保育所を核にした子育て支援ネットワークの構築が必要。核になるに

  は「人」の確保が不可欠である。保育士に長く働いてもらい、経験やノウハ

ウを培ってもらうことが必要だ。

  狛江は公立を軸に保育行政を進めてきた。その良いところがたくさんある

のに、見えにくくなっている。市民ばかりでなく、保育士達が気づいてい

ないこともある。

  子どもは「地域をつなぐ人」である。子のない人を含めて、地域での子育て、

「皆保育」を考える必要がある。子育ては地域づくりだ。その核として公立

保育所を位置づけていきたい。

 

福川さんのお話を受け、活発な論議

 

  福川さんは約1時間15分、熱く語ってくださいました。続いて、参加者と質疑応答・意見交換が活発におこなわれました。その要旨(メモできた部分だけですが)を報告します。

 その前に、「狛江の保育所がどうなってるのかわからない」という方のために、

市役所が作成している『しおり』から、認可保育所の状況がわかる部分を抜粋

して末尾に掲載しましたので、あわせてお読みください

 

【参加者】

◇公立保育園が地域の子育ての核になることの大事さがわかった。市立保育園

 の保育士を「ぱる」に派遣して研修したり、その力量向上に努めている。

※注

あいとぴあ子ども発達教室"ぱる"。児童発達支援事業対象施設であり、心身

の発達に遅れがあったり、アンバランスであったりする学齢前児童が対象。社会福祉協議会が運営し、施設長・臨床心理士・言語聴覚士・理学療法士・作業療法士・音楽療法士・保育士・保健師・ソーシャルワーカーのスタッフがいる。

◇この春の入所申請では、新設の「虹のひかり保育園」の希望が断トツだったよ

うだ。狛江駅に近いだけではなく、午後8時15分まで延長保育が可能とい

うのが人気だった。

※注 末尾に掲載した資料をご覧ください。

◇保育園に利便性だけを求める保護者もいる。公立保育園の役割を保護者に伝

えるのが難しい。

【福川さん】

◇どこでもぶつかる問題だ。親は仕事で手一杯で、子どもをあずけっぱなしで、

子どもの生活を見ていない傾向がある。参入している民間企業は、そんな親

のニーズをうまくとらえている面がある。

◇親にきちんと話していく以外ないだろう。

【参加者】

◇親の意思の変化はやむを得ないだろう。

◇市立保育園6園は地域的にいい配置になっている。地域での子育ての拠点

となるにふさわしい。

◇市立保育園の園長経験者が市内の認証保育所を巡回して、相談にあたること 

 もやっている。こうした市立保育園の財産を、民営化でなくしてはならない。

【参加者】

◇市立保育園のとりくみをわたしは知らなかった。もっと市民に伝えていくこ

とが必要だ。

【福川さん】

◇もっと現場を見ていくことが必要だろう。

◇公立保育所を核にした子育て支援ネットワークは、そんなにお金をかけなくてもつくっていける。

【参加者】

◇市立保育園2園の民営化を言っている高橋市政は、何のために民営化するといっているのか?

【参加者】

◇あの不充分な市民参加のまま決定した「後期基本計画」では、「多様なニーズに応える保育サービスの提供とサービス供給の効率化の両面から,宮前保育園と和泉児童館の複合施設としての建替えを検討するとともに,民間活力の導入を進める。」と書いているが、要は「効率化」であり、職員の定数削減のためだろう。

【参加者】

◇高橋市長は、小学校の給食調理の民間委託も言っている。保育園もそうだが、自分たちの仕事が奪われようとしているのに、なぜ現場職員から反対する動きが見えないのか?

【参加者】

◇保育園の場合、正規職員の削減がおこなわれ、臨時職員が増えており、保育士が毎日の業務に疲れきっている。

【参加者】

◇狛江市役所だけの問題ではないが、全体的に労働組合の力量が弱まっている。

【福川さん】

◇民営保育園でとりくんでいることで、公立でも取り入れていくべきことがあるだろう。

◇行政側が民間委託してどうしたいのか、中身をきちんとチェックして、市民に伝えていくことが必要。決して行政任せにしてはならない。

◇民営化によって一番違ってくるには人件費だ。民政化しても、職員がちゃんと長く働けるように待遇改善していけば、当然コストがかかる。そういう労働運動が求められる。

 

幅広い市民運動の必要性を確認

 

 約2時間、熱心に学びました。わたし達自身が「保育の今」の実態をしっかり

把握して市民に伝え、子育ては地域づくりであり、その核として公立保育所を位置づける「これからの保育」に向けた市民運動の必要性を確認できた「まなび塾」だったと思います。福川さん、ありがとうございました。