寄稿のページ
                              

狛江市議会「日本政府は核兵器禁止条約に署名を」の意見書採択

寄稿                                 
増田 善信

狛江市議会「日本政府は核兵器禁止条約に署名を」の意見書採択

 

増田善信

狛江市議会は、1127日の本会議で、「日本政府の核兵器禁止条約に署名を求める」意見書を、賛成11名、反対10名で可決した。

私は核兵器禁止条約に日本政府が署名しないことに対し、非常に大きな憤りを持っていて、地方議会からの意見書の力で政府に調印を迫りたいと願っていた。意見書の提出を日本共産党狛江市議団長の鈴木悦夫氏に相談すると、議会休会中または議会開会中に提出された意見書は、先ず本会議で対応する委員会に付託され、休会中の委員会で審議・採決され、次に開催される市議会の本会議で委員長の委員会報告を聴取したのち本会議で審議・採決される、という手はずになっているという。

そこで、先ず原案を私が作成し、鈴木議員が少し修正して【資料1】の意見書を確定して9月14日に議会に提出した。この意見書は休会中の総務文教委員会に付託されたので、これも鈴木議員の助けを借りて署名簿を作成し、民主団体に配って協力を頼んだ。1か月少しの短期間であったが、446筆(当日持参12筆、合計458筆)が集まった。1130日9時より総務文教委員会が開かれ、冒頭で約10分意見陳述が許されたので、【資料2】の陳述書に沿って陳述した。

 

私の意見陳述の後に討論が行われた。当日の討論の内容を私の記憶と市議会の「アラ原稿」を基に採録すると次のようになる。

先ず、生活者ネットの議員が賛成討論を行った。彼女は、ICANがノーベル平和賞を受けたことに触れた後に、カナダ・トロントに在住の広島の被爆者サーロー節子さんの「日本政府の国連での核兵器廃絶決議は核兵器禁止条約についての言及がなかった。このことは被爆者への裏切りではないか」という発言を引用したうえで、被爆国日本がリーダーシップをとって核廃絶に向けた活動をしてほしい、と願望を述べ、被爆を受けた個人への援助まで明記した核兵器禁止条約への日本政府の参加を望む、という趣旨の発言を行った。

ついで、日本共産党の議員が賛成討論を行った。核兵器禁止条約の内容も含めて素晴らしい討論であった。彼女は①核兵器禁止条約を審議してきた国連会議のホワイト議長はコンセンサス(全会一致方式)による採決を提案したが、核の傘に入っている国で唯一参加していたオランダの提案で採決方式になり、賛成122、反対オランダ、棄権シンガポールで採択された、②日本は不参加、③89日の長崎市の平和式典での長崎市長の平和宣言は、被爆者の長年の努力が形になったのがこの条約であると述べている、④この式典で、被爆者は「日本政府が会議に参加しなかったことは被爆地として到底理解できない」と批判したうえで、「日本政府の一日も早い参加を国際社会が待望している」と発言した、⑤サーロー節子さんは、「核廃絶に近づく壮大な成果」、「70年待ち続けた条約」、「核兵器は道義に反するだけでなく、今や違法になった」、「世界の指導者はこの条約に署名すべきだ」と発言している、⑥今秋に開かれた国連第1委員会では、核兵器禁止条約採択を歓迎し、全加盟国の早期署名・批准を呼びかけている一連の決議が多数の賛成で可決されている、⑦日本政府の決議は核兵器禁止条約に全く触れていないので、不支持や反対、棄権をする国が多く出た、⑧核兵器禁止条約は、人類史上初めて核兵器を違法化し、「悪の烙印」を押したもので、画期的な条約である、⑨この条約を作り上げたのは被爆者を始め、市民社会の良心と世界の草の根の運動である、⑩日本共産党は国連交渉会議に参加し、条約実現のために努力した、⑪一方、日本政府は条約に背を向け、安倍首相は署名・批准は行わないとして、世界の流れに逆行する態度を取り、長崎の被爆者から「どこの国の総理か」と言われた、⑫日本政府はアメリカの核戦略にしがみつき、被爆者や国民多数の願いを無視する日本政府の立場が根本的に問われている。非人道兵器の使用を認めるかどうかが問われているのである、⑬日本政府が核兵器禁止条約に署名し、日米核密約の廃棄、非核三原則厳守・法制化など、日本の非核化に踏み出すことこそ北朝鮮の核・ミサイル開発放棄の要求にも説得力がある、と核兵器禁止条約を全面的に解明したうえで、日本政府の署名を強く要求して賛成討論を締めくくった。

最後に、公明党の議員が討論に立った。彼は先ず、核兵器禁止条約は核兵器を違法化した初めての規範であり、核兵器のない世界への大きな一歩となることは間違いない、と発言したので、てっきり賛成討論かと思った。しかし、その後、彼は核保有国と日本、NATO加盟国が参加していないことに触れ、この採決によって、条約推進国と核抑止論を主張する核保有国との溝が深まったことを強調し、現実に核兵器が存在しているので、核保有国抜きに核廃絶は実現できないと述べ、その根拠に被爆者団体や反核NGOも「この条約は到達点ではなく、これからが核廃絶の正念場と言っているではないか、と述べて、彼の主張を合理化した。その後、核軍縮については、日本政府、核保有国、非保有国いずれも2020年のNPT再検討会議の成功に向けて、NPT体制の維持・強化が必要という認識を共有していると述べ、再度、核保有国と非保有国の溝を埋める対話をし、亀裂の橋渡しをすることが唯一の被爆国日本の責務であり、112728に初会合がある賢人会議で核軍縮を実質的に進展させる提言をまとめ、来年4月のNPT運用会議準備会議に提出す予定であることを明らかにした。彼は公明党は核兵器禁止条約を評価していることを強調したうえで、双方の溝が深まり、核軍縮を着実に進める対話がなされず、核軍縮ができない状況は絶対につくってはならないという立場であり、賢人会議がそのスタートになることを期待し、被爆地開催を推進してきた、と公明党の方針を述べ、再度、核兵器禁止条約を評価してきたことを強調した。そして最後に、核保有国は核開発を続ける北朝鮮の存在など安全保障関係が厳しいため、核抑止論は必要と考え、核不拡散と核軍縮を着実に進め、国際情勢を改善しながら一歩一歩核廃絶に向かうべきであると訴えている、と核保有国の代弁者のような発言をした後に、こういう状況の中では、現段階では、意見書提出は「慎重という立場です」との結論を述べて発言を終えた。

私はこの発言を聞き、賛成はダメでも棄権かもしれないと思った。しかし、採決では、共産2、生活者ネット1が賛成し、自民系2、公明1が反対し、可否同数となり、委員長が反対を表明して、委員会では否決された。その結果、狛江市議会での意見書採択をほとんどあきらめていた。

1127日から狛江市議会の12月議会が開かれた。この中で、休会中審議の各委員会の報告がなされ、総務文教委員会では否決されたことが報告されたが、本会議 で1110で可決された。共産5、生活者ネット2、社民1、旧民進1、無所属2の合計11名が賛成し、自民系6、公明4の合計10名が反対した。無所属議員2名はもともとは保守系で、一般の議案の採決では大体、自民系・公明と同じ動きであったが、この核兵器禁止条約では賛成してくれた。その結果、画期的な意見書が採択されたのである。

この成果を他の自治体に広げ、その力で日本政府に核兵器禁止条約に調印させ、国会で批准させ、一日も早い核兵器禁止条約を発効させ、それこそ完全な核兵器廃絶に進めたいものである。