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特別寄稿                                 

原発の再稼働と自然エネルギー


元・気象研究所研究室長・理学博士 増田善信
1、「コントロールされている」とは程遠い福島原発の現状

福島県相馬市の酪農家の男性(54)が、原発事故3か月後に「原発さえなければ・・・ 、」という言葉を新築の堆肥舎の壁に残して、自らの命を絶った。原発事故で出荷停止となり、搾った原乳を捨てる日が続いていたという(「朝日」2011年6月20日)。

福島原発事故から3年7カ月。このような自殺者46名を含む原発事故関連死が1671人にも及び(「福島民報」2014年3月14日)、未だ12万人以上の人が故郷を追われている。甲状腺の悪性ないし悪性の疑いの子どもが2014年3月末で104人に達するなど、多くの人が放射線の恐怖に怯えている。最も深刻なのは汚染水問題で、凍土壁も挫折、汚染水処理の“切り札”ALPS(多核種除去装置)もトラブル続きで汚染水を薄めて海に放出している。安倍首相の「コントロールされている」状態では全くない。

 今は亡き福島第一原発所長・吉田昌郎氏が「吉田調書」の中で「東日本の壊滅を覚悟しなければならないほど恐ろしい事故だった」と述懐しているように、原発が大事故を起こし、放射能が外部に漏れると、人類はそれを制御する手段を持たず、被害は空間的・時間的・社会的に広がり続けるという「異質の危険」をもたらすのである。

それだけでなく、使用済み核燃料の処理・処分の問題は全く未解決で、何万年にもわたって人類を脅威にさらすのである。著名な映画俳優の渡辺謙氏は、2012年1月25日にスイスのダボスで開かれた世界経済フォーラム年次総会でスピーチに立ち、「『原子力』という、人間が最後までコントロールできない物質に頼って生きて行く恐怖を味わった今、再生エネルギーに大きく舵を取らなければ、子供たちに未来を手渡すことはかなわないと感じています」(「東京」2012年1月26日付)と述べている。

まさに、原発は現在だけでなく、未来にわたって、人類に危害を加えるもので、廃止以外にない非人道的な技術である。今こそ、自然エネルギーに切り替えるべき時である。

2、原発再稼働の動きと二つの地裁判決

原子力規制委員会は9月10日、九州電力川内原発1、2号機(薩摩川内市)が、新規制基準を満たしているとする「審査書」を決定した。しかし、この審査書には、まともな火山対策がないなど “杜撰な”ものである。

 地震・津波については、基準を引き上げ、配管の強化や堤防のかさ上げなどを要求している。しかし、これで被害が無くなる保障はない。最も大きな欠陥は火山対策がない点である。最近、御嶽山が突然噴火し、戦後最大の火山被害があったばかりであるが、川内原発の近くには現に噴煙を上げている阿蘇、霧島、桜島などを含む14の火山があり、かつては大噴火による火砕流が原発敷地内に流れ込んだという史実があるのに、規制委は「影響をおよばす可能性は極めて小さい」として無視している。

 また、御嶽山の噴火で、噴火の予知は、特定の火山を除いてほとんど不可能であることが明らかになっているのに、規制委は「GPS(全地球測位システム)と地震観測、監視カメラで噴火予知は可能」としている。これに対して、多くの火山学者や専門家が「現在の火山学では巨大噴火の時期や規模を予測するのは極めて困難」と断言している。

それだけでなく、規制委が「予知は可能」の論拠にしている論文の著者であるフランスの研究者に、火山噴火予知連絡会会長の藤井敏嗣東京大学名誉教授がメールで確かめたところ「『あくまでギリシャの一火山での研究結果であり、ほかの場所に当てはめられない』と困惑していた」と紹介、「火山リスクが低いという規制委の判断は科学的根拠に基づいていない」と厳しく指摘しているという。(笠井亮「原発再稼働ストップ、即時ゼロの決断を迫る」『前衛』201411月号)。

また「審査書」が、避難計画を対象外にして、自治体任せにしているのも問題である。「産経」(2012727日)には、福島原発事故直後の避難が「無政府状態」であったことは明らかで、高齢者や身体障碍者、妊婦、乳幼児など要援護者を含めた安全な避難計画など作れるはずはない。

この審査書の所論と正反対の論理で、原発再稼働の動きに立ちはだかっているのが、相次いで出された二つの原発裁判の判決である。

第1は、大飯原発3,4号機の再稼働の差し止めを命じた2014年5月21日の福井地裁(樋口英明裁判長)の判決である。この判決は「個人の生命、身体、精神及び生活に関する利益」全体を「人格権」とし、この人格権は憲法上の権利であって、これを超える価値を「他に見出すことはできない」と断定した上で、原発の本質的な危険性が、この人格権を「極めて広範に奪う」ものとして、原発の運転差し止めを命じたのである。 

さらに、地震大国日本で基準地震動を超える地震が来ないという考えは「安全神話」そのものであり、「原発は電力の安定的な供給や、コストの低減をもたらす」という説は「いのちとコストを天秤にかけもの」であり、国富とは「豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活している」ことで、「これを取り戻すことができなくなることが国富の喪失である」など、政府、電力会社の原発稼働を合理化する論調を、完膚無きまでに論破し、大飯原発の再稼働の差し止めを命じている。

第2は、原爆事故で避難中に自らの命を絶った女性への損害賠償を命じた2014年8月26日の福島地裁(潮見直之裁判長)判決である。この判決は「平穏な生活」や「家族としての共同体」、「働き続ける生きがい」など、誰もが大事にするこうした価値が、原発事故で奪われたことへの明確な審判を下したものである。

この裁判の今一つの重要な点は、東電は原発事故が起これば、核燃料物質が広範に飛散し、多くの人が避難を余儀なくされ、避難者が様々なストレスを受け、うつ病をはじめ多くの精神障害者が生まれ、さらに自死にいたるものが出現するであろうことは、「予見可能であった」として、東電を断罪した点である。しかも東電が控訴を断念したので、この「予見可能性」の判決が確定した。今後の復興問題にも利用できるであろう。

3、自然エネルギーへの転換

2013年9月に大飯原発3,4号機が定期点検に入ってから1年、原発は1基も動いていない。しかし、電気は十分賄えたので、原発なしでも電気は賄えることが証明された。そこで、政府や電力会社が持ち出しているのが、コストと二酸化炭素(CO2)排出増加の問題である。コスト問題は大島堅一『原発はやっぱり割に合わない』(東洋経済新報社、2013)で、「そのからくり」が明らかにされており、前記福井地裁の判決で「いのちとコストは天秤にかけることは許されない」と断罪されているので、問題はCO2排出増加の問題である。

今夏の猛暑に異常気象の連続で、広島の土石流の被害など集中豪雨や竜巻など異常気象が多発している。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)5次評価報告書は「このまま温室効果ガスの排出が続くと、今世紀末には世界の平均気温が最大4.8℃、平均海水面が82cm上昇し、干ばつや洪水などが増えると 警告し、これを防ぐためには再生可能エネルギーなどの比率を2050年までに3〜4倍にする必要がある」と述べている。地球温暖化防止が急務になっており、CO2などの排出を減らすために自然エネルギーへの転換が急がれているのである。

 ドイツでは、今年の電力消費量に占める再生可能エネルギーの割合は28・5%になったという(「東京」20141012日)。ドイツ連邦政府が描く2050年までの温室効果ガス削減シナリオには「再生可能エネルギー電源を8割にする」ことが明記されている。ところが、日本はせいぜい2%程度。それだけでなく、経産省は1015日、有識者による新エネルギー小委員会に、大規模太陽光発電所(メガソーラー)の認定を凍結するなど、再生可能エネルギー固定価格買い取り制度の抜本的見直しに向けた素案を示したという(「東京」20141015日夕刊)。政府・電力会社が「原発再稼働を最優先にしている現れで、自然エネルギー拡大に逆行するものといわねばならない。

自然エネルギー(再生可能エネルギー)は、太陽光、太陽熱、風力、水力、地熱、波力,潮力、バイオガスなどの総称で、ほぼ無尽蔵である。2010年度の環境省が、特に東北地方と関東地方に焦点を当てて調査した「再生可能エネルギー 導入ポテンシャル」によると、太陽光は,戸建で3,7105,310(万kW,集合住宅で8202,210(万kW)、非住宅系で15,000(万kW)であり、風力は190,000(万kW,中小水力は1,400(万kW,地熱は1,400(万kW)で、合計212,330215,320(万kW)であった。

 すなわち、太陽光、風力、中小水力、地熱だけで21億万kW以上もあり、これは2009年度のわが国の最大電力2億8千万kWの約10倍、当時の全原発54基の発電能力の約40倍もあるのである。

 わが国の現在の発電・配電の仕組みは、地方、特に僻地の巨大な発電所(火力や原子力)で発電し、巨大な高圧線を利用して大消費地の都市へ送電して消費するようになっている。従って、送電ロスが極めて大きい。一方、自然エネルギーは「地産池消」であるので、ほとんどロスがなく、特にバイオマス発電の場合は、電気と温水が利用できるコウジェネ発電が可能な高効率発電である。

 自然エネルギーは大工場などの動力には不向きな点があるので、当然火力発電が残る。しかし、地球全体で温室効果ガスが増えない範囲であれば問題はない。効率の良いコンバインドサイクル発電などと自然エネルギーを組み合わせ、持続可能なエネルギー供給体制を採れば、温暖化は防げるのである。

しかし、自然エネルギーは変動が大きく安定性に欠けるので、スマートグリッドと呼ばれる最新の情報通信技術(ICT)を活用して、安定な電力の供給・需要を制御する必要がある。そのためには電力会社が一体的に所有している発電部門と配電部門を分離し、自然エネルギー発電者が自由に配電系統にアクセスできるようにする必要がある。

 このような方式の自然エネルギーの利用ができれば、危険な原発から解放されるだけでなく、CO2排出の火力発電を持続可能な範囲に減らすことができ、地球温暖化の危機からも免れることができるのである。

4、九州電力などの自然エネルギー買い取り拒否問題

ところが驚いたことに、自然エネルギー買い取り拒否のニュースが流れてきた。9月25日に九州電力が、10月に入って四国、沖縄電力などが相次いで自然エネルギーの買い取りを拒否することを発表した。理由は、事業者や家庭と購入契約した太陽光や風力発電の全量を買い取った場合、「管内の電力需要を上回る時間帯や季節が生じる可能性があり、大規模な停電を起こす恐れがある」からという(「東京」2014年9月25日)。

 九電によると、7月末までの申し込みの全量は1262万kWで、これが全部接続された場合、総量は春・秋の昼間の電力需要約800万kWを上回る。契約申し込みの前の設備認定分を合わせると、夏のピーク需要約1600万kWをも超えるという。

 しかし、これには何重もの嘘や誇張がる。先ず、自然エネルギーの導入は、欧州(EU)各国をはじめ、全世界で日本より幅広く実施されており、積極的な設備投資がなされているので、このようなことは起こっていない。もし起こったとすれば、日本政府や電力会社が、前節で述べたような設備投資を怠ってきたからである。しかも、1262万kW全部を今すぐ接続するわけではない。現在の導入量はせいぜい約300万kWで、ここ23年の間に設備投資をすれば十分間に合うのである。 

 特に許せないのは、自然エネルギーの利用を拒否していながら川内原発の再稼働を推進していることである。再稼働を進めている川内原発12号機の電気出力はそれぞれ559千kW、合計約112万kWである。もし再稼働すればこの分の電力が増えるので、自然エネルギーの利用はその分だけ減る。しかし、再稼働を止めさえすれば、約112万kWの自然エネルギーが導入できるのである。

沖縄電力は総べて火力発電であり、本土の電力会社も原発が稼働していないのでほとんどの電力を火力発電で賄っている。その結果、地球温暖化をもたらす二酸化炭素を大量に排出している。しかも「円安」の中での石炭・石油の輸入であるので、電気料金の値上げの理由にされている。自然エネルギーの買い取り拒否ではなく、火力発電所の電力供給を減らすのに使うべきである。

 さらに、九州電力と中国電力、四国電力と関西電力とをブロック制にし、お互いに余剰電力を融通し合う制度を採用すればいいし、現在は夜間の余剰電力で揚水し、揚水発電に利用しているが、自然エネルギーが昼間のピークを超える虞がるというのなら、超過電力で揚水発電をし、夜間電力に使って、その分火力発電を減らせばよい。

 このように工夫すれば、自然エネルギーの買い取り拒否などをしなくてもよい。九電などの「買い取り拒否」の発言は、原発再稼働と一体になって出されていると思われる。電力会社の「買い取り拒否」の論理を徹底的に暴露し、原発再稼働反対を旺盛に進める必要があると思う。

5、「一点共闘」を旺盛に進め、革新・民主の政府樹立へ

以上述べたように、「異質な危険」をもたらす原発からも解放され、温暖化も防止できる道筋が明らかになっているにもかかわらず、安倍政権と電力会社は、「自然エネルギー買い取り拒否」の攻撃まで加えて、強引に原発再稼働を進めている。しかし、「再稼働反対」、「原発ゼロ」を求める国民的運動は発展し、「原発再稼働反対」の世論は7割に達している。それだけではない。「集団的自衛権行使容認の閣議決定撤回」、「普天間基地の辺野古への移転反対」、「消費税10%への値上げ反対」、「TPP反対」、「憲法九条を守れ」などの「一点共闘」が発展し、安倍政権の支持率は徐々に低下している。恐らく小渕経産相と松島法相の辞任によって、支持率は急落するであろう。

しかし、知事選挙の結果などを見ると、ほとんどのところで自民党が勝利している。それはなぜか。マスコミの「一強他弱」の宣伝に押され、真の対抗勢力が見えないからであると思う。自民党には反対だが、明確な対抗勢力が見えず、革新・民主の候補も「泡まつ候補」くらいにしか見えず、やむを得ず名前の知れた自民党候補に投票するか、棄権するかするためであろう。事実、投票率がほとんど10%近く下がっている。「東京」(20141020日)の共同通信の世論調査でも、支持政党なしがほぼ前回と同じ39.2%であった。この「支持政党なし層」に真の対抗勢力を示し、「一強他弱」から脱皮することが求められているのである。

最近、「反原発の集会」などでも、やっと「安倍政権打倒」のスローガンが叫ばれるまでになってきたが、どんな政府をつくるかが明確ではない。今こそ、安倍政権に対抗する政権はどんな政権かを明らかにし、その政府樹立に向けた大統一行動を展開すべき時ではないかと思う。


全国革新懇(
平和・民主・革新の日本をめざす全国の会は、思想・信条や政治的立場の違いを超えて、革新三目標(@日本経済を国民本位に転換し、暮らしを豊かにする日本を目指す、A日本国憲法を生かし、自由と人権、民主主義が発展する日本を目指す、B日米安保条約をなくし、非核・非同盟・中立の平和な日本を目指す)の実現を目指す政治団体である。すなわち、革新・民主の政府の樹立を目指す政治団体である

  しかも、革新懇が掲げるこの革新三目標は、今闘われている「一点共闘」のすべてを網羅している。すなわち、「消費税10%への値上げ反対」、「TPP反対」は、「日本経済を国民本位に転換し、暮らしを豊かにする」ことであり、「憲法九条を守れ」は、「日本国憲法を生かし、自由と人権、民主主義が発展する」ことであり、「集団的自衛権行使容認の閣議決定撤回」、「普天間基地の辺野古への移転反対」は、「日米安保条約をなくし、非核・非同盟・中立の平和な日本を」である。従って、この革新三目標を掲げる政治勢力こそ安倍政権に対抗できる唯一の勢力であり、その政府ができれば、「一点共闘」が掲げているすべての課題は解決できるのである。「一点共闘」を広げに広げ、その力を総結集して、革新・民主の政府樹立に向けて奮闘することが求められているのである。            (2014・10・20